君が思ってるより僕はいいオタクじゃない

 元ネタはこの曲。

 

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君が思ってるより 僕はいい人じゃない

嘘はついていないけど正直でもない

 

 さすが俺たちの康、自分みたいなオタクには刺さる。そういう意味の歌詞ではないんだけど、彼の書く歌詞はベタベタに普遍的なのでこちらが勝手に姿をくみ取れる鏡のようなものだ。

 

 アイドルオタクを8年近くやってきた。思えば遠くにきてしまったなと思うのは、あの時、「アイドルに対して求めていたものを忘れてしまった」自分と向き合う時だ。

 

 いつから「推しが推されること」を望むようになったんだろう

 いつから「推し」が自分が好きな姿でいてくれることを望むようになったんだろう

 いつから「レス」してもらうことを望むようになったんだろう

 いつから「認知」してもらうことを望むようになったんだろう

 いつから……

 

 並べていけばキリがない。気づいたら「あるがまま」を楽しむだけでは満足できなくなってしまっていた。

 初めはもっと純粋にアイドルというコンテンツを楽しんでいたはずだ。当時、仕事に追われて疲れていた自分は、趣味と仕事が直結していたため、趣味がストレス解消の行き場にならない状況になってしまった。そんな時にハマったのがAKB48グループだ。当初は、ただただキラキラした子たちが歌って踊ってる姿、バラエティや選挙などでがんばる姿、そしてそこから伝わってくるその子たちのキャラクターが面白くて楽しかった。推しメンがいなくても十分だった。いわゆるアニメやゲームなどの二次元オタクだったので、本人のキャラを活かしつつ、二次創作的に楽しむことができる「マジすか学園」もいいきっかけだった。

 気づくと推しメンができ、その子を軸にしてグループ(SKE48)を追いかけていく楽しさを知っていった。気づいたら箱推しになっていた。ひたすらそうしたものを享受するだけで楽しかったのだ。

 それもそれも最初の2年くらいまでの話だ。好きだった子がやめたり、運営の方針に違和感をもったり、知識を増やしたり、思い入れしていけばいくほど、自分の「願望」「理想」と「現実」のギャップを感じることが多くなっていた。そして、気づけば自分は最初に推していたグループを推すのをやめて、違う若いグループ(HKT48)を推すようになった。

  若いグループだったので、フレッシュで伸びしろしかないというのもあったし、また一から推すのにもちょうどよかった。この時も初めはやはり楽しかった。キャラクターを知っていくところからはじまり、そのメンバ―同士の関係性、成長していくパフォーマンス、どれを追っかけていても楽しかった。そして、気づくとまた推しメンができた。

 おしゃれでかわいくみんなから愛されるポンコツキャラのその子は見ていて愛しかったし、この時初めて生誕委員なんかもやってみた。高3だったその子が高校を卒業して、髪を染めた。それはそれで確かにかわいかったんだけれど、自分が「望む姿」ではなかったのだ。数か月の逡巡を経て、同期の違う子に推し変した。

 

 「見た目が変わったくらいで推し変するなんて本当のファンじゃない」

 

 それからはこうした自分自身に向けられたわけではない言葉を聞くのがしんどくなった。耳障りのよい、この手のアイドル側に立った言葉は、普遍的な正義のように流通している。たぶん、自分が「いいオタク」じゃないと思うようになったのはこの頃くらいからだ。

 

 そこからは何をやっていても、そうした気持ちがつきまとうようになった。

 AKB48グループにはつきものの総選挙でも自分なりにはがんばったし、生誕委員も何度かやった。握手の売上が選抜につながるということで握手券をたくさん購入したこともある。ローカルアイドルのCDをたくさん購入したこともあった。本当に好きになった子もいた。

 でも、その中でも病んで拗らせた結果、疲弊してしまい、推すメンバーやグループを変えていった。結局は自分の思い通りにならないことがストレスになってるのだ。そんなオタクが「いいオタク」なわけがない。

 

  周りには、最初のころの楽しみを忘れず、それをちゃんと続けている「いいオタク」もたくさんいる。自分の「願望」や「理想」をもっていてもバランスをとって病まず拗らせず「いいオタク」をしている人は多い。そういう人を見ていると軽い劣等感を感じる。

 

 でも同時に、そこに歪んだ自分らしさを感じてもしまうのだ。自分は「物わかりのいいオタク」「都合のいいオタク」になりたいわけではない、と。なのでこれを治すつもりがないわけだから、あまり意味のない自嘲ではある。

 

 そんなことを言っていても、アイドルの前に立つと「いいオタク」みたいな行動をとってしまうので何とも格好がつかない。別に分かりやすくモラルが低いとか粗暴だとかそういう話でもないから、推してる子から「なんでいいオタクじゃないの?」と聞かれたりもした。「髪を染めたくらいで推し変したから」みたいな話をしてお茶を濁してしまったけど、それはあくまでもそれは象徴的なエピソードにすぎない。

 

 そして、その時に冒頭の歌詞を思い浮かべたのである。

 

 この曲の主人公は、

君が信じてくれても 僕は悪い人間だ

愛が真実かなんてどうでもいいこと

君の知らない僕が この世界にいたんだ

さあ今なら間に合うよ すべてを忘れてほしい

 とその場から去ることを示唆している。

 

 でも、彼のように全てを捨て去れないあきらめきれない自分は、それでも願うことをやめられずに、現場に行きつづけるのだ。